《これは意外、意外や意外!
RIKKA VS 真田美幸、アジアヘビーのベルトを賭けた武田忍軍と真田家の一戦は、この試合初めて見せた関節技・コブラツイストが、真田家に凱歌をもたらしました!》
スレイヤー 8月シリーズにて行なわれた RIKKA VS 真田美幸のアジアヘビー級選手権は、序盤から勢いある戦いを見せた挑戦者・真田が、王者・RIKKAによる終盤の猛反撃を何とか抑えきり、初のシングル王座を手に入れた。 *1a
リングアナが「意外」と繰り返したように試合は真田が苦手とする関節技で決まったが、結果までもが意外というわけではない、堂々たる戦いぶりでの戴冠劇だった。
「よっしゃあ! 自分、嬉しいっス!
今日はありがとうございました、RIKKA先輩!
リターンマッチはもちろん最優先で……って言いたいところっスけど、すんません!
今回だけは、どうしても先にやりたい人がいるんです!」
おそらくは試合前から考えていたのだろう。
誰に問われたわけでもなしに、真田は早くも防衛戦の相手を指名しようとしていた。
小さくざわめく会場の中、真田は大きく深呼吸すると、得意の気合いをたっぷりと込めた大声を、手にしたマイクに向かってぶつけた。
「桜崎先輩ぃっ!! 自分のこの熱い胸の想い、しっかりと受け止めてくださいっス!!」
そのラブコールは、観客席はもとより、既に試合を終えている選手たちの控室にもスピーカーを通して満遍なく届き──
「…………はぁ?」
シャワーを浴びて一息ついていたメイデン桜崎の、クセ毛気味な髪を慎重に手入れするその手を、ピタリと止めさせたのである。
かくして、早くも翌月── 9月の最終戦にて、真田美幸 VS メイデン桜崎という GWAタッグ王者同士のアジアヘビー級タイトルマッチが組まれることになったのだが……。 *2a
「ふぅ……。 真田ってば、なんでわざわざ私を指名するんだか。
正直、やりたくないってのに……」
真田が得意とする打撃技は、桜崎最大の弱点だった。
だからやりたくない……という単純な話でもない。
弱点の話なら、真田最大の弱点は、桜崎が得意とする関節技だ。
ある意味、条件は互角と言える。
見方を変えれば二人は互いの弱点を補える間柄であり、だからこそ二人のタッグは、ここまで格上のチームを相手に GWAタッグベルトを死守し続けられているのであった。
「その GWAタッグの方に悪影響出るのが嫌なのよね。
10月には、石川さんと RIKKAさん、WWPAタッグ王者相手の防衛戦が決まってる。
そんな時にパートナー同士でシングル王座戦なんて……ホント、真田は何を考えてるのよ?」
「…………単純なことだ……」
「っ!! RIKKAさ……お嬢様。 驚きましたわ。 いつからそこに?」
気配でも消していたのか、天井裏にでも潜んでいたのか。
いきなりすぐそばに現れた RIKKAに虚をつかれながら、桜崎は何とかメイドレスラーとしての自分を取り戻して挨拶をした。
「…………先輩。 パートナー。 そしてライバル……」
「……はい? あの、RIKKAお嬢様……?」
「…………全てにおいて、敬愛してやまないのだろう。
だからこそ、全力でお前と戦いたいのだ……」
「それは……真田お嬢様のこと、ですか?」
「…………その想い、大切にしてやるがいい……」
自分の質問はここまで全て無視されていたが、不思議と桜崎は腹が立たなかった。
だから、おそらく答えが無いことを覚悟した上で、質問を続ける。
「RIKKAお嬢様……どうしてわざわざ、私にそんな話を?」
「…………少し羨ましいな、お前が……」
最後だけ少し噛み合った気がした会話は、言うだけ言った RIKKAがそのまま疾風のように去ったことで、唐突に終わりを迎えた。
「……行っちゃった。 でも、私を羨ましいって言われても……。
RIKKAさんも、石川さんや上原さんとのタッグで世界タイトル取ってるのにねえ」 *3a
一人つぶやいた桜崎だったが、RIKKAの残した言葉の意味を、何となくは理解していた。
「──パートナーで、ライバル。 おまけに、すっごく慕ってくれてる後輩、かぁ。
確かに、レアっちゃレアかもね……」
どこか遠くを見るようにして少しの間だけ考えを巡らせ、それから桜崎は、自分の頬を両手で軽く叩いて、よしっ、と決意を口に出した。
「ま、しゃーないわね。 ここは私が一肌脱いであげますか。
いえ、どうせならタイトルももらって、先輩の威厳も示してやっちゃいましょう!」
やがて迎えたアジアヘビー級タイトルマッチは、実力伯仲との下馬評を証明するかのごとく、お互い一歩も引かない接戦のまま、終盤までもつれ込む。
最後は新王者・真田が斬馬迅で桜崎を振り切ったものの、互いの持ち味を活かしあった名勝負に、会場からは大きな拍手が送られたのだった。 *4a
「今日は参りましたわ、お嬢様。 ですが、好事魔多しとも申します。
調子に乗って来月のタッグ戦で失敗するようなことだけは、許しませんからね?」
「もちろんっスよ、先輩! 先輩とのタッグベルトも、自分の宝っスから!
だから、これからもずっと、よろしくお願いしますっ!」
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