第二回、エンジェルウィング・チャンピオン・カーニバル。 *a1
世界の覇者たる証・黄金のメダルを手にする女神を決める、女子プロレスの世界大会。
市ヶ谷がお金にまかせてかき集めた強力スタッフに、市ヶ谷財閥グループ企業の協賛、そして何より国内・国外のプロレス団体の惜しみない協力。
これらを得て、ビューティ市ヶ谷のぶちあげた荒唐無稽とも思える話は、発表からわずか二ヶ月で現実のものとなろうとしていた。
「えっとぉ、なになに。
参加選手32名を実績とかから四つの組に分ける、と。 ふむふむ、これをポットっていうのね。 で、そのポットからそれぞれ抽選で一人ずつ選ばれて、四人ずつの八つの組ができると。 その中で総当りのリーグ戦やって、上位二名が……ってことは二位でもいいんだ。 その二名が勝ち抜けで決勝トーナメントに進む。 トーナメントは、組み合わせが A組一位とB組二位なんて感じであらかじめ決められてるけど普通のトーナメントで、でも、リーグ戦では同率の場合、決着がつくまで再試合を………って………」
「祐希子さん?」
「ああああああ! なによ、このややっこしいルールはぁっ!
シングルも、タッグとおんなじ普通のトーナメントにすればいーじゃない!
市ヶ谷の奴、何を考えてんのよ! これは新手の嫌がらせ!?」
WRERAの選手寮、共用リビング。
掲示板に貼られた大会レギュレーション。 その複雑さに頭を掻きむしらんばかりのマイティ祐希子に向けて、結城千種は柔和な、しかし冷や汗の混じる笑みを、浮かべた。
「え〜と。 きっと嫌がらせとかじゃないですよ?
なんでも、サッカーの世界的な大会で採られてる方式を参考にしたらしいです」 *a2
「さっかー? それなら、千種は詳しいでしょ。
あたしにわかりやすく教えてくんない?」
「いえ。 私、野球は大好きですけど、サッカーはそんなに……」
「ふぅん。 ま、いいや。
とにかく、全部勝てばいいのよね、勝てば。 それで優勝なんでしょ?」
「それはそうですけどぉ。 祐希子さんや『優勝は私』って言い切ってるめぐみならともかく、私とかからすればリーグ戦で一回負けても何とかなるっていうの、大きいですよ」 *a3
「でも、そのリーグ戦のおかげで試合が倍増しちゃって、会場の調整とか大変みたいよ。
うちの社長や霧子さんに、なんか成瀬まで、市ヶ谷につき合わされてるみたいだし。
ったく、たまには人の迷惑考えなさいってのよ、あいつは」
「あはは。 でも、市ヶ谷さんってやっぱりすごいですよ。
こんな大変な大会を、こんな短期間で企画して実行しちゃうんですから」
「すごいのは、あいつのワガママ聞いて、泣きながら仕事してる裏方さんたちの方よ。
あいつじゃないってば」
もっともと言えばもっともな話で祐希子が市ヶ谷を切り捨てたところで、リビングに新たな二人が入ってきた。
「あ、祐希子さんに千種さん。 お疲れさまでーす!」
「祐希子さんと結城?
なんか珍しい組み合わせですねぇ。
あ、ポテチ食べます?」
小縞と富沢。
こちらも珍しい組み合わせな二人は、連れ立ってコンビニに行っていたようだ。
それぞれレジ袋を手に、祐希子と千種に挨拶してからテーブルに着くと、袋の中のお菓子を取り出していく。
「おーい、二人とも。 大会のルールが出てるわよ。 見といた方がいいんじゃない?」
「え? 大会って、市ヶ谷さんがやってるなんとかカーニバルってやつですか?
嫌ですよー、祐希子さん。 私がそんなのに出られるわけが……」
「WWPA王者が、何言ってんのよ。
小縞は国内団体の現役王者だから……ほら、ここ。 ポット2ってとこで確定よ。
森嶋ちゃんとか龍子とか市ヶ谷とかしのぶとかよりも、格上扱いなんだから」
「え゛っ……」
お菓子に伸ばした小縞の手が固まった。
その指の先からチョコスナックを掠め取って、富沢が自分の口に放り込む。
「はーらら。 ご愁傷さまよねえ、小縞。
ま、私も EWAタッグ王者だからタッグは出るけど、シングルは関係ないし。
シングルの予選、リーグ戦期間は、ゆっくり羽を伸ばして……」
「レイさんも、聡美ちゃんと同じポット2ですよ?」
千種の一言に、今度は富沢の手が固まった。
「な……何言ってんのよ、結城。
そ、そりゃあ私は TTT王者だけど、あの王座は前の大会でも無視されてるし。
今回も関係あるはずが……」
「そっちこそ何を言ってんのよ、富沢。
16人に絞った前回はともかく、今回は32人。 しかも、あんたは TTT王座戦であのモーガンや市ヶ谷まで倒しちゃったんだから。 そんな選手を放っておくわけないでしょ?」
「えっ、でも、あの、でもですね、祐希子さん。 私は、その……」
「それに、市ヶ谷のやつ TTTで不覚とって、あんたのことそーとー怒ってたみたいだし。
主催者権限で裏から手を回して、いきなりあんたと当たるよう抽選操作とかしてても、おかしくないわよねぇ。 ま、あんたこそご愁傷さまにならないことを祈ってるわよん」 *a4
「えええ、そんなあっ! 祐希子さぁん!」
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