故郷(くに)別対抗タッグリーグ&トーナメント戦、W杯(WはレッスルのW)。
都合によりスレイヤーと WRERAの選手たちを中心に、10ヶ国+1星雲、地域数にして18地域からの代表選手・64名を集めて行なわれるタッグの大会は、近年のサッカーワールドカップによく似たルールで行なわれる、文字通りの夢の祭典──ドリームマッチである。 *b1
故郷(くに)一覧と主な選手 ※括弧内は参加枠 *b2 |
北海道 (1) | ライラ神威 |
東北地方 (2) | ウィッチ美沙、越後しのぶ、中村真帆 |
関東地方 (3) | ビューティ市ヶ谷、テディキャット堀、 富沢レイ、佐久間理沙子 |
中部地方 (3) | 真田美幸、ケルベロス小鳥遊、 武藤めぐみ、結城千種 |
近畿地方 (3) | メロディ小鳩、フェアリー保科、 コンバット斉藤、小縞聡美、クラリッジ成瀬 |
中国地方 (3) | マイティ祐希子、桜井千里、 村上千春、村上千秋 |
四国地方 (2) | 森嶋亜里沙、メイデン桜崎、イージス中森 |
九州地方 (3) | サンダー龍子、フレイア鏡、 永沢舞、ボンバー来島 |
アメリカ (4) | ダークスターカオス、クリス・モーガン、 ジェナ・メガライト、ローズ・ヒューイット |
メキシコ (1) | チョチョカラス、デスピナ・リブレ |
ロシア (1) | ナスターシャ・ハン、アリス・スミルノフ |
イギリス (1) | エミリー・ネルソン、マリア・クロフォード |
ドイツ&オランダ (2) | ウィン・ミラー、ディジー・クライ、 ヘレン・ニールセン、カレン・ニールセン |
フランス (1) | ソフィー・シエラ、ジーナ・デュラム |
中国 (1) | ブリジット・ウォン、シンディー・ウォン |
ブラジル (1) | ディアナ・ライアル、ミレーヌ・シウバ |
アンドロメダ (*) | ソニックキャット (*:関東扱い) |
「けっ、なにが夢の祭典、ドリームマッチだぁ? アホらしくてやってられるかってんだよ、たくっ」
参加地域や大体のルール説明が終わって──彼女はあまり聞いていなかったが──次に抽選とやらが始まるまでの、わずかな空き時間。
前の座席の背もたれに両足を投げ出すという、いささか行儀のよろしくない姿勢を取って、ライラ神威(北海道出身)は一人ブツブツと文句をたれていた。
「そもそも『故郷(くに)別対抗戦』だかなんだか知んねぇが、これってすげぇ不公平だろーが。 どう考えたって、地域差が激しすぎんだ、地域差がっ」
仰け反らせた頭の後ろで腕を組んだまま、ライラは彼女の言う『不公平』な『地域差』の代表格を、目だけでポイントしていった。
まぎれも無く世界トップクラスの、サンダー龍子(熊本)とフレイア鏡(長崎)。 加えて GWA王者・ボンバー来島(福岡)。いずれも九州地方の代表だ。
昨年のEXタッグリーグ優勝コンビ・武藤めぐみ(静岡)と結城千種(愛知)の二人は、ともに中部地方の出身。
スレイヤーのトップ・森嶋亜里沙(徳島)を擁する四国地方には、同じスレイヤーの実力者、メイデン桜崎(愛媛)もいる。
極めつけは、NA世界王者・マイティ祐希子(山口)と、IWWF世界王者・桜井千里(広島)。
現時点で世界No.1とNo.2と目される二人は、ともに中国地方代表なのであった。
「あれに比べりゃあ、アメリカのカオスとモーガンが組んだって可愛く見えちまうぜ。 あんな奴らにどうやって勝てってんだよ。 ああ?」
「……ライラ先輩は、ほんとーに人の話を聞かないのですね」
「あんっ?」
斜め前から独り言に割り込んできた声。
その出どころに向けたライラの意識が捉えたのは、三つ前の列からひょいと顔を出してこちらを見ている、後輩・ウィッチ美沙(青森出身)の姿だった。
「んだぁ? おいテメェ。 話があんならもうちょっと近くに──」
明らかに自分の暴力を警戒して離れているらしい美沙に文句をつける間も無く、その美沙から山なりに投じられた物が、ライラの胸元に落ちてきた。
表紙に大会レギュレーションと書かれた薄っぺらい小さな冊子が、一つ。
「この大会のルールブックなのです。さっき壇上でハゲオヤジの後に出てきたオバサンが説明してたのですよ」
「んなの、いちいち聞いてねえよ」
と美沙に悪態をつきつつも、ライラは素直に表紙を開き、ざっと目を走らせる。
32チームを 4チーム×8グループに分けてリーグ戦を行なう。
1位2位の16チームでトーナメントを行なう。
引き分けの場合は再試合が原則だが再々試合は無く、グループリーグの2位決定についても直接対戦成績の良い順→勝利タイム合計の小さい順に選出する──といった大会ルールの説明に続いて、チーム分けと抽選の方式が書かれていた。
そのチーム分けの部分で、ライラのページをめくる手が止まった。
「『評価値合計キャップ制』……だと? なんだこりゃ?」
「多分、ライラ先輩の言う『不公平な地域差』の是正措置なのです。
強すぎるタッグができないように二人の評価値合計に上限を設けて、それ以下になるような組み合わせに限定して、ランダムにタッグチームを作るのですよ」 *b3
「……なるほどな。
このルールなら、化け物は化け物と組めねぇ。 むしろカスな奴としかタッグになれねぇってこったな。 ところで、評価値ってのは何だ?」
「さあ。 まあ、なにぶん夢の話なのですから……」
「……ふぅん。 ま、いいか」
ライラは美沙に冊子を投げ返すと、ニヤリと笑った。
そのまま、特徴的な哄笑まで一気にギアをシフトアップさせる。
「ひゃーっはっはっは! そんなら私にも勝ち目はありそうだな!
いや、勝ち負けなんざ二の次だ! 不釣り合いなデコボコタッグのデコとボコ、どっちも私がボコボコにして血まみれにしてやるぜぇ? ひゃーはははっ!」
俄然やる気が出てきたらしいライラ。
彼女が続ける物騒な笑い声を美沙は平然と耳にしていたが、やがて、かすかに唇の端を歪めた。
天真爛漫な美沙にしては珍しく、少しばかり陰湿な笑みの形に。
「ふふふのふ。 やっぱりライラ先輩はお馬鹿さんなのです。
自分のパートナーがどなたになるのか、全っ然わかってないのですね。
まあ、美沙のような魔法を使えないのですから、無理もないのですが……」
美沙がちらりと上げた視線の向こう。
ライラのずっと後方にあたる上階の席に、ライラとどこか似たマスクが一つ、持ち主の銀髪を浮かび上がらせていた。
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