一回戦で 8人が残った『第一回エンジェルウィング・チャンピオン・カーニバル』。
二回戦 (準々決勝) から決勝までの 7試合は、同日に行なわれるワンナイト・トーナメント形式であり、選手は最大で三試合を戦い抜く必要があった。
だからと言って、負ければそこで終わり。 ペース配分など考えている余裕は無い。
ましてや、自分の相手は、あの──
「…少し、話ができるかしら。 桜井さん…?」
海の深さを感じさせるその声に千里が思考を中断されたのは、彼女が会場入りしてすぐのことだった。
「あなたは……スレイヤーの森嶋さん?」
「…お久しぶり。 対抗戦では世話になったわね…」
半年前の団体対抗戦で手合わせした二人の再会。 *1A
対抗戦では千里が勝ち名乗りを上げたが、その力量に大きな差は無い。
何より、二人の実力は今や世界でも十指に入る。
そのことは、このハイレベルなトーナメントで、揃って一回戦を突破したことでも証明されていた。
「…ただ、お互いに次は厳しい相手だわ。 私はサンダー龍子、あなたは…」
「──マイティ祐希子。 確かに厳しい相手です」
二人とも、二回戦は自分の団体のトップを張る選手との対決。
しかも、単なるトップではなく、嫉妬の念すら抱く気にさせないだけの実績と実力を備えた“無敵の女神”たち。
タッグならまだしもシングルでは一度たりとも勝ったことが無い組み合わせだけに、多くは龍子と祐希子の順当勝ちを予想していた。 *2A
「…それも当然のことね。 だけど、あなたはどうなのかしら…?」
「どう、とは……どういう意味です?」
「…負けると思って試合をするのか、と聞いているのよ…」
「──私は、自分の意志でリングに上がる。 それ以上、答える必要がありますか?」
「…いえ。 それで充分…」
どこか満足めいた響きを残して、森嶋はきびすを返した。
そのまま立ち去ろうとする彼女に、今度は千里が声をかける。
「待ってください。 それだけを訊きに、わざわざ私の所へ?」
「…そうよ。 試合前にお邪魔をして悪かったわね…」
「……本当に? 何か、私に言いに来たとか……?」
「…別に。 ただ、次の試合は、できればあなたと戦いたい。 そう思っただけよ…」
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