「もうちょっと面白い勝ち方できたら、よかったかしら?」
22分42秒、メロディ・スタンプで、新WWCAジュニア王者・メロディ小鳩が誕生。
スレイヤー・レスリング初のジュニア王座がもたらされた。 *7
そのWWCAジュニア王座戦を皮切りに、いよいよ幕を開けた四大タイトルマッチ。
販売開始後数時間で完売御礼となりドームを埋め尽くした観客も、試合を重ねるごとに興奮の度合いを増していった。

アジアヘビー王座戦は、18分20秒。不知火で RIKKAが初防衛。 *8
AAC世界ヘビー王座戦は、35分43秒。市ヶ谷には珍しいローリングクラッチホールドで、八度目の防衛を達成。 *9
そして、ついにメインイベントの時がやってくる。
《ついにあいまみえた、二人の女神!!
北の地、WRERAから降臨せしは、NA世界無差別級王者、“炎の女神”マイティ祐希子!
迎え撃つは、このスレイヤーが誇る無双の女王、“雷霆の女神”サンダー龍子です!》
二人が登場するだけで、ドームは地鳴りのような大音響に包まれ、負けじとアナウンサーの声も絶叫の度合いを増す。
両者がロープをくぐってリングで顔を合わせた時、場内の興奮はまさにピークに達した。
《今期に入ってシングルでは無敗を続ける、スレイヤー無差別級王者、サンダー龍子!
今日は挑戦者として、実力世界一を掲げる NA世界無差別級のベルトに挑みます!
果たして狂える龍は、王者・マイティ祐希子をその爪牙で食い破ることができるのか!?
全世界注目の一戦! 今、そのゴングが……鳴ったぁ!!》
「試してやるよ……あんたが、どれだけ強いのか!」
「よおっし! 全力で楽しませてもらうわよ!」
先月の龍子と同様、祐希子もこの日までに、ブレード上原、フレイア鏡、RIKKA、森嶋亜里沙という、スレイヤーの名だたる選手たちを撃破してきている。 *10
祐希子は、その勢いに乗って仕掛けた。
《マイティ祐希子、連打ぁっ! チョップ、エルボー、ドロップキック! これは一気に戦いの趨勢を決め……いや!? サンダー龍子、効いていない!
仁王立ちで、不敵な笑みを浮かべている!》 *11
「その程度かい? それなら──拍子抜けだね!!」
「!!」
《ああぁぁぁっっ! プラズマサンダーボム、爆裂ぅっ!!
ここで早くも伝家の宝刀を抜き放ったサンダー龍子!
一気に趨勢を決めるのは、このスレイヤー王者の方なのかぁ!?》
「そうさ! 一気に、終わらせる!」
「そうはいかないわ!」
「必殺技」の一発が文字通り必殺となるほど、甘いレベルの戦いではない。
投げ、打撃、パワー、関節、飛び技、受け。 いずれも高度な攻め合い、凌ぎ合いが、リングの上で繰り広げられていく。
実力、調子、全てを総合した今の二人の力は、ほぼ互角。
それならば、後は天運が勝敗を左右する。
幸運にも序盤にプラズマサンダーボムを決めることができた龍子と、それを喰らって深刻なダメージを残した祐希子。
その違いは、勝負が終盤に差し掛かるにつれ、大きな差となって顕現してくる。
「どうした、息が上がってきたな。 もう降参か!?」
「冗談っ! まだまだよ!」
勝利の女神はこの時、間違いなく龍子の方にオリーブの枝を差し出していた。
だからといって、その運命に唯々諾々と従う祐希子ではない。
「これで、逆転っっ!」
半ば強引に、しかし見事なタイミングで放たれたのは、祐希子双翼の片方、JOサイクロン。
過去に相手してきたどんな敵でも、これを返せはしまい。しかし。 *12
「覚えときな! 龍はどんな暴風でも支配できるんだよ!」
サンダー龍子は、その誰よりも強かった。
まさかのリバース、前方回転エビ固めに、祐希子の肩がマットに付いて──かろうじての、キックアウト。ドーム中が、呑んだ息を吐き出す。
「最強の女神の座! このサンダー龍子がもらったぁっ!」
続く高速ブレーンバスターを決めたとき、龍子は勝利を確信した。
起き上がろうとするその視界の中、マットに叩きつけたはずの祐希子の姿が、どこにも無いことに気付くまでは。
《龍子、上だぁっっ!》
「!!?」
弾かれたように頭上を振り仰ぐ龍子。
無数に輝くライトの中に、一枚の天使の羽根が見えた気がした時──
「どんな高みにも……あたしはたどり着いてみせる!」
祐希子の双翼。そのもう一枚の羽、ムーンサルトプレス。
投下された華麗なる無重力弾に、龍子は信じられない表情のまま、カウント3つを奪われていた。 *13
「なっ……私は、負けたのか……?」
龍子にとっては、半年以上前まで遡る、シングルでの敗北。
それを与えた相手は、死闘を物語る苦しげな表情で仰向けの龍子を見下ろすと、その表情を一呼吸で別のものに変えた。
屈託のない笑顔に。
「そだね。 今日は、あたしの勝ち。あんたの負け。
でも、これで終わりじゃないでしょ? あたしも、あんたもね!」
「祐希子……」
「このレッスルの世界に、終わりはないもん。 どんどん、どんどん、ずーっと続いていくの。 だから、あんたとあたしの関係も、今始まったばかり。 これからが面白くなるんだから!」 *14
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