10月、WRERAの社長は、携帯電話に見慣れない番号からの着信を受けた。 *1A
「もしもし、どちらさまで……ああ、霧子くんか。 え、違う? え、えっ?」
『ふふ、そちらの井上霧子さんとは別の井上霧子ですわ。
──はじめまして、スレイヤー・レスリングの井上と申します。
突然のお電話で恐縮ですけれど、今日はうちの社長の名代としてお話がありまして……』 *2A
その電話で、ある提案を受けた社長は、すぐに秘書の霧子に連絡を入れると、トップイベンターである葉月、祐希子、来島、千里──市ヶ谷はいつもの通りプライベートジェットで埼玉の自宅に戻っていた──を事務所に集めさせた。
「スレイヤーとの団体対抗戦!? マジかよ、霧子さん! もちろんやるんだよな!」
「良い話題にもなるから、社長は乗り気よ。
あとはあなたたちの希望次第だけど、来島さんは問題ないみたいね。 他の人はどう?」
霧子の問いかけに、律儀に手を挙げて発言権を得たのは、千里だった。
「対抗戦といっても、どういうルールですか? まずそこを知りたいのですが」
「単純な 5対5の勝者数式よ。 組み合わせを決めて互いに選手を送り込み、対抗戦の試合として定めたシングルマッチでの勝ち数を競う。 それ以外の試合は、普通の興行と同じね」
「それであれば……私も、異存ありません」
「あとは、いい機会だから若手選手の交流戦も行なう予定ですって。 二人ほど若手代表を選ぶので、その選考はお願いね、葉月さん」
「へいへい。 ま、クジでも引かせましょうかねぇ」
「あとは……祐希子さん。 難しい顔してるけど、ひょっとして嫌なのかしら?」
「いえ、あたしはいいんですけど。 ……あたしの相手って、誰になりそうですか?」
「それは、サンダー龍子でしょうね。 あなたと龍子選手のステータスを考えれば、それ以外はありえないでしょう。 それとも、他の人とやりたいの?」
「まさかぁ。 龍子との再戦はあたしも楽しみですよ。 ただ、『あいつ』がワガママ言い出さなきゃいいなぁって……」
祐希子のその不安は、的中した。
「キーーッ! どうして『団体トップ同士の対決』が、龍子と祐希子戦ですの!? この団体のトップは私! 向こうのトップを迎えうつのもこのビューティ市ヶ谷以外にありえませんわ! 社長、ぜひとも再考すべきですわよ!」
……との猛抗議を、両団体共同の記者会見に乱入してぶちかましたものだから、たまらない。
ざわめく会見場に頭を抱えた WRERAの社長を救ったのは、スレイヤー代表として出席していたサンダー龍子の一言だった。

「問題ないよ。 私が二戦やればいいんだろ? 石川のやつには、ちょっと悪いけどさ……」 *3A
龍子の英断── WRERAの社長には涙を流さんばかりに感謝された──によって、対抗戦は 4人対5人という変則の 5on5として決定したのだった。
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