『ってことは何かい? 今回のスキャンダル騒ぎは、全部あんたんとこの仕業。 スレイヤーの社長の陰謀ってことかい、千春?』
『社長ってよりは、井上って腹黒女秘書の陰謀だろーけどな。 まず間違いないね、千秋』
井上が聞いたら、絶句どころか泡を吹きそうな会話。
それを携帯電話で交わしているのは、WRERAの村上千秋と、スレイヤーの村上千春だった。
『金目のもの探して……じゃなかった、偶然通りかかった社長室の近くで、その井上って秘書が怪しい電話してんのを聞いちまってさ。 あと、すげぇムカツク大馬鹿だけど、妙に鋭いウチの小鳩って女も、
「市ヶ谷さんも大変ね〜。 井上さんも罪な人だわ。 いひ♪」
……なーんて言ってやがったしな』 *1C
『迷惑な話だね、まったく。
おかげでこっちは、来月の新女殴りこみ予定まで自粛ムードになっちまってんだ。
行けなかったら、千春、お前が責任取れよ?』
『私に言うなよな。 こんな時だからこそむしろ団体のために、とかそれっぽいこと言って出てくりゃいいだろ? なんたって、二人して八島の姐さんと戦えるチャンスなんだぜ』
『まあな。 ぶっちゃけ、団体のことなんて、知ったこっちゃねーけどよ……』
そして、翌月。
二人がかねてから所属団体に希望を出していた、姉妹揃っての新日本女子殴りこみ。 そのお目当ては、二人がレスラーになる前からの憧れであった“リングのカゲ番”“伝説のレディース”・八島静香との対戦だった。 *2C
「ふん、6人タッグかよ。 どうせならタイマンか、普通に千秋とのタッグでやりたかったね」 *3C
「まったくだね、千春。 しかも、メガライトってヤツは元世界チャンプだろ? いくら八島の姐さんでも、私らの出番あんのかね?」
二人の念願が叶ったのは、八島静香&ミミ吉原&菊池理宇 VS 村上千春&村上千秋&ジェナ・メガライトの 6人タッグ戦。
千春と千秋の思惑はともかく、客観的評価ではメガライトの「一人勝ち」状態。
むしろ千春&千秋という「穴」をどう新女側の三人が攻めるか、が注目された試合だったのだが、始まった勝負は思わぬ展開を見せた。
「あんたの出番は終わりだよ、メガライト!」
「クゥッ……バカな!?」
菊池とミミを寄せ付けず楽勝かと思われたメガライトを、満を持して出てきた八島が圧倒。得意のパイルドライバーも炸裂、そのまま試合を決めにかかる。 *4C
「待ちな! 今度は私らが相手だ。 行くぜ、千春!」
「おう! 地獄のコンビネーション、見せてやろうぜ、千秋!」
そこに割り込んだのが、千春と千秋だった。
二人と八島の間にはまだ歴然とした実力と経験の差があったが、若さと勢い、そして臆せぬ戦いぶりでその差を埋め、試合の流れを引き戻した。
──その後は、菊池やミミの奮起、メガライトの意地もあって、試合は大熱戦の末、時間切れドローに終わる。
勝ちきれなかったことを悔しがる千春と千秋だったが、各々が得意とする裏投げとサッカーボールキックが八島に通用したことと、そして何より試合後に、

「あんたたち、いい根性だね。 気に入ったよ!」
──と八島がかけてくれた言葉は、二人の胸に確かな満足感を残したのだった。
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