ハプニングもあったが、興行的にも評価的にも大成功を収めた、スレイヤー VS WRERAの団体対抗戦。
それが終わって数日が経ったある日。
ようやく一息ついてお茶をすすっていた WRERAの社長は、
「ブーーーッ!! 熱ちゃちゃちゃ!」
「しゃ、社長!? 何やってるんですか!?」
届けられた一枚のスカウティングレポート。
それを見て飲んでいたお茶を派手に吹き出すという、お約束この上ない失態を演じることとなった。
そして、それからさらに数日が経った、ある晴れた日のこと。
社長の姿は、東京にあった。
「佐久間……理沙子さん。 失礼ですが、本名……ですよね?」
「はい。 おっしゃりたいことは、わかりますけれど……」
プロレス団体の社長、と名乗った時から、彼女は全てを理解していたのだろう。 スカウティングレポートの写真そのままの顔が、困ったように微笑んだ。
その柔らかな笑顔に、団体立ち上げ時の懐かしい記憶が引き出され、社長は軽い目まいのようなものを感じた。
WRERA設立のさらに前から今に至るまで、新日本女子のトップに君臨し続ける女王、パンサー理沙子。
WRERAの立ち上げに際して助力を受け、その後も主にマイティ祐希子絡みで縁の深い彼女の本名は、佐久間理沙子という。 *1B
今、社長の目の前にいる十代後半の少女の名も、佐久間理沙子。
その上、優雅な物腰や落ち着いた声など──いや、髪の色や年相応の顔つきを除いたほとんど全てが、パンサー理沙子と瓜二つだった。
無論、スカウトがそれだけで目を付けるはずはない。
高い運動能力とプロレスへの興味、その二つを兼ね備えている少女は、パンサー理沙子の存在を知った上で、「テストだけでも受けてほしい」という社長の誘いを前向きに承諾。
とりあえずは、連れ立って WRERAの本拠・札幌へと向かうこととなった。
(みんな、驚くだろうなぁ……)
その中でも、特に一人。
パンサー理沙子をきっかけにこの世界に踏み込んだあいつは、どういう反応をするのだろう。
楽しみなような、どこか怖いような──複雑な気持ちで澄み渡った東京の青空を見上げる、WRERAの社長だった。 *2B
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