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日本のマットから飛び出しためぐみは、単身、アメリカの大地に踏み込んだ。
IWWFでは今までやったことのないヒール (悪玉) 役を割り当てられて戸惑うも、レスラー兼マネージャのハーピーや、同じくヒールのミリア・メアーズ、ダイナマイト・リンらに、アメリカのレスリングを教えられていく。
「あ、こいつ、ムトーだぜ!」
「あら、ファンの子供たちかな…」
「アニーをいじめるなっ! ムトー、日本に帰れ!」
「え、え、え?」
「こら、ガキども! ヤキ入れられたいのかぁ!」
「わぁ!? ダ、ダイナマイト・リンだぁ! 逃げろぉ!」
「…ムトォ〜、ヒールがキッズにいじめられちゃ笑い話にもならないわよ」
「助かったわ、リン。あーゆー時、どおしたらいいのかわかんなくって…」
「簡単な事よ。さっきみたいに怒鳴り散らすか、威嚇するか。子供達は怖いモノ見たさにチョッカイ出してくるんだから、期待に応えてやらないと…ね?」
「そうか、そうなんだぁ…。ブーイングもヒールレスラーに対する歓声なんだよね。よし、一発リングでパフォーマンスしてみよっと!」
ヒールとしての試合ぶりにも徐々に馴染んでいっためぐみは、高い実力もあってファンやプロモーター、周囲のレスラーたちにも一目置かれるようになっていった。
ベビー・フェイスの中堅レスラー、ザ・USAもその一人で、彼女はめぐみに自分とタッグを組んでのベビーターンを提案する。
「どう? 今のままじゃ、日本人のユーはメインには上がれないんじゃないか? だからさ、ミーと組んでやってみない? ミーと一緒にベルトを狙ってみようよ!」
「悪いけど、今、私はあなたの力を必要とはしてないわ。できればシングルプレイヤーとしてやっていきたいし」
「でも今、ユーの力でシングルのチャンプになれるかい? でも、タッグは違う! タッグは息が合えば、その力は想像を越えるものになるのさ! だからこそ、ユーの力が必要なんだ!」
申し出に惹かれるめぐみ。 しかし、今の彼女にとって、ザ・USAとのタッグは甘えにも思えた。 千種との約束。それを守るためには今は…
「…ごめん。本当に今はそんな気になれないの。私はこれからも一人でやっていくつもり。だから…他の人を探して」
「そうか…そこまで言われちゃ仕方ないな。それじゃあ、グッドラック、ジャパニーズガール!」
「う、上原さんじゃないですか!?」
「ハァイ。元気そうね、武藤」
「…なんだ、知り合いか? それなら話が早い。今度、ウチのヒールに入る、ブレード上原だ。同じ日本人同士、まあ、頑張ってくれ」
「よろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
ブレード上原との突然の再会。
上原はJWI後のことを多くは語らず、めぐみにも聞きはしなかった。 しかし、各国をフリーで渡り歩く上原の存在はめぐみにとって良い励みになったし、上原の勧めもあって、若手向けのベルト、アトランティック・ヘビーを狙う気にもなった。
アトランティック・ヘビー級王者は、ダイナマイト・リンからベルトを奪ったばかりの、ザ・USA。
若手向けのローカル・ベルトとはいえ、勝てばめぐみにとって初のベルトとなる。めぐみは並々ならぬ気合で試合に臨んだ。
「…やったぁ、勝った! ベルトだぁ!」
「よくやった、おめでとう武藤!」
「あ、そうだ…おい、USA! ベビーフェイスの連中はこのベルトに二度とさわれないぞ!」
BOWWWWWWWWWW!!
ブーイングもヒールにとっては歓声。 仮にもタイトルホルダーになり、シングルのビッグタイトルに次の照準を合わせて充実した日々を送っていためぐみは、ある日フロントから急な呼び出しを受けた。
事務所へ向かう途中、ジムを覗いためぐみは、一人のレスラーに目を留める。
「昨日の試合に出てた子ね…って、ちょっと、あのバーベル200キロくらいあるんじゃない!? すごいパワーね…ああいう子が将来、アメリカマットのメインを張るんだろうな…」
「…で、なんですかボス? 急に事務所に来いなんて、もしかして私のギャラ上げてくれるってんじゃあ…ないですよね」
「そうだな、そろそろ上げてやろうとは思っとった」
「わぁ〜い!!」
「しかし、ユーは日本に帰らなければならなくなった。ニュージャパンのオフィスから連絡があったのだ」
「えっ!?」
事態が飲み込めないめぐみに、マネージャのハーピーが説明を始めた。
アメリカでめぐみも顔を合わせている姉妹タッグ、スナイパー・シスターズに、祐希子と来島が敗れて世界タッグベルトを奪われた。
ベルトの早期奪還を宣言した新女フロントは、祐希子のパートナーとして、来島ではなくアメリカで実績を積んでいるめぐみを指名したのだという。
「…キシマもいいレスラーだが、同じタイプのレスラーを苦手としている。スナイパー姉妹はまさにそのタイプだからな」
「でも、急にそんな事言われても、私には心の準備ができてません!それに、こっちの事情はどうなるんですか!? メインのタイトルに挑戦もできず帰るなんて…」
「チャンスはいつかまた来るもんだ、ムトー。しかし、ニュージャパンが君をここまで必要としてくれることは、もうないかも知れない。…違うか?」
「…」
悩むめぐみを、プロモーターのマクファソンは引きとめる。日本に戻ってもファイトマネーも減るだけで良い事は無いと。 しかし、めぐみは日本に行くことを選び、ハーピーにその決意を告げる。
「日本に残して来たファン、仲間、そしてライバルのことを思い出したんです。その人達のためにも、私は帰らなければって…きっとそれが今なんだわ!」
「うむ、キミの活躍を期待している。待ってるよ、キミが世界チャンピオンになる日を」
「はい! 今まで本当にありがとうございました!」