「来いよっ。 そのメイド服を真っ赤に染め上げてやるぜ!」
「少々おイタが過ぎるようですわね。 困ったお嬢様ですこと!」
ライラ神威&フレイア鏡 VS メイデン桜崎&真田美幸。
7月のスレイヤー巡業最終戦で組まれた WWPAタッグ王座戦は、先鋒のライラと桜崎が向き合った開始早々から、激戦となった。 *1a
「教えてやろうか? これでも私のモットーは有言実行なんだよ!」
ライラのナックルを顔面に受け、桜崎がいきなりの流血。
“血塗られた悪夢”などと呼ばれるようになったライラは、その二つ名を証明するように、血が目に入り視界のおぼつかない先輩を容赦なく攻め立てる。
「桜崎先輩、交代っス! ライラ、覚悟!」
「おーっと、怖い怖い。 こっちもタッチだ。 頼むぜ、先輩?」
「あらあら。 人使いの荒い子ね」
真田と鏡では、団体No.2の後者が圧倒的に優位。
事実、鏡は猪突猛進の真田を巧みにいなしてダメージを与えていく。
しかし、真田にはあのナスターシャ・ハンすら沈めた必殺の一撃があった。 *2a
「真田六文銭の一撃、受けてみろぉっ!」
斬馬迅が鏡を打ち倒すと、出血を止めて再登場した桜崎も、鏡のお株を奪う関節技の連続でリードを広げていく。
「チッ、なにやってんだか──背中がお留守だぜ、メイドさんよぉっ!」
鏡のピンチにライラが背後から桜崎を襲うが、それは桜崎の予想範囲内だった。
「行儀の悪いお嬢様のしつけも、お仕事のうちですわ!」
カウンター気味のエクスプロイダーでライラを返り討ちにすると、場内は一気に沸いた。
さらに桜崎は、真田とのWドロップキック、Wラリアットで畳みかけ、ライラを追い詰める。
挑戦者組のベルト奪取は、もはや時間の問題と思われた──。
「……と、ここまでは良かったんすけどねえ。 すんません、先輩。 自分がふがいないばっかりに……」
「お嬢様のせいではありません。 私がこの後、鏡先輩に攻め込まれて後手に回らなければ……悔やまれますわ」
テレビとHDDレコーダが置かれた、寮の共用リビング。
いつの間にか流されていた、先月の興行の映像。 自分たちが敗れた試合のそれを眺めながら、真田と桜崎は二人並んでため息をついた。 *3a
その後ろ、ドアの影からこちらを見つめる、村上千春の姿には気付かずに。
「クククッ。 うまくいったぜ。 いい感じで落ち込んでやがる。 今から明日の試合が楽しみだねぇ……」
8月。 *4a
前月に WWPAタッグベルト奪取に失敗した桜崎&真田のタッグは、今度は GWAタッグ王者として、石川涼美&村上千春組を挑戦者に迎えた。
「あは、千春ちゃんとは初めてのタッグですね〜。 お姉さん、今日は張り切っちゃいますよ〜!」
「あ、頭を撫でんじゃねぇ、このウシ乳女! 今日はタイトル奪うチャンスなんだ、足引っ張んなよ!」
足を引っ張るな、などと言ってはいるが、力量も経験も自分より石川が上なのは、千春も分かっている。
加えて、タッグにおける石川の勝率の高さは特筆すべきものがある。
だからこそパートナーに選んだのだ。
「お姉さんパワー、いきなり炸裂です!」
石川は序盤、いきなりの大技・のど輪落としを桜崎相手に決め、コーナーに控える千春をほくそ笑ませる。
だが、桜崎と真田も、伊達に GWAタッグ王者を名乗っているわけではなかった。
「この桜崎、まだお暇をいただくわけには参りません!」
「ここで負けたら、自分の誕生日を祝えないっス!」
桜崎が石川にエクスプロイダー、真田が千春に斬馬迅、とそれぞれの得意技を決め、勝負の天秤は一気に王者組の方へと傾いた。
挑戦者組も細かいタッチを繰り返して凌ぐが、ついに石川が桜崎に捕まってしまう。
片エビ固め、チキンウィングフェイスロック、ニーリフト。
連続攻撃に、石川はあわやフォール負けのカウント2.8まで追い詰められ──
「その希望、絶望に塗り替えてやるよ!」
そんな石川を救ったのは、千春得意のサッカーボールキックだった。
もんどりうって吹き飛ぶ桜崎をさらに攻め立てると、慌てて入った真田を反則攻撃で返り討ちにして、あっという間に展開を五分に戻す千春。
石川も息を吹き返し、千春とともに、息を切らした王者組を逆に追い詰めていくが……。
《──おーっと、ここでレフェリーが手を振る! ゴングが鳴り響いた!
GWAタッグ王座選手権は、規定時間の60分を過ぎての引き分けです!
後半は防戦一方だった王者・桜崎&真田組、からくもベルトを守り抜きましたっ!》
「チッ……あんだけ攻めといて、ベルトは奪れずか。 ついてねぇな」
「ごめんね〜、千春ちゃん。 私がもっとしっかりしてれば……」
「まったくだね。 ま、とりあえず今晩は夕飯をおごってもらおうか。
ちょうど、一度入ってみたかった高級フレンチがあるんでね……。
頼りにしてるぜ、石川先輩?」
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