ブレード上原引退興行──
そう銘打たれた、5月のスレイヤー・レスリング巡業。 *1A
因縁も含めて関係の深いワールド女子からは、十六夜、南、滝が参戦。
アメリカ留学中の新人、永沢舞も帰国した。 *2A
シリーズ開幕戦のオープニングでは新日本女子時代の盟友・パンサー理沙子からのメッセージが読み上げられるなど、お祭りムードとも言えるなごやかな雰囲気の中で、興行が始まろうとしたのだが……。
『メッセージだけなんて、理沙子の奴も意外とつれないねぇ。 そう思わないかい?』
《おおっと? この声は……六角!?
六角葉月と、そしてその隣にいるのは、マイティ祐希子だっ!!
WRERAのトップイベンター二人が、このスレイヤーの興行に登場です!
これはやはり、ブレード上原の引退に華を添えようという WRERAの計らいでしょうか!?》
「うーん、それもあるんだけどね。 あ、カメラさん、こっちこっち」
《お? 本人の指示で、マイティ祐希子の姿がスクリーンに映し出され……!?
あれは、NA王座ベルト! マイティ祐希子が持つ、団体を超えた実力制世界王座! かつてサンダー龍子も挑み、惜しくも掴めなかったベルトが、今ここにその姿を現しています!》
「えへへ、解説ありがとね、アナウンサーさん。 というわけでぇ……このベルトに挑む気、ありますか? 上原さん!?」
《!!!》
アナウンサーが思わず仕事を忘れて絶句し、会場には驚嘆と戸惑いのざわめきが響いた。
そのざわめきが止み、会場中の視線が一点に集まったのは、名指しされた本人──ブレード上原が、マイクを手にした時だった。
「……それは、私の引退へのはなむけってヤツかい、祐希子?」
「そーゆーつもりで挑んでくるんなら、お断りしますよ。
このベルト、そんなに軽いものじゃないと思ってますから」
「へえ……じゃあ、どういうつもりならいいんだい?」
「わかんないですか?」
「いいや……」
──その時、上原が見せた表情を目にして、傍らのサンダー龍子はハッと息を呑んだ。
それは、かつて彼女が上原から「私に勝てるって、本気で思ってる?」と言い切られたときに浮かんでいた不敵な笑み、そのものだったからだ。 *3A
「あんたに挑み、そのベルトに挑み、そしてそれを巻く──そのつもりさ!
このブレード上原の刃、まだそれだけの底力は残ってるんだよ。
あんたこそ、それでも良ければそのベルトを賭けて勝負してみるんだね! 祐希子!」
「OK! その勝負、受けました。 上原さん!」
この月の最終戦、新日本ドーム興行で組まれたタイトルマッチは二試合。 *4A
サンダー龍子に六角葉月が挑む、スレイヤー無差別級王座戦、および、
マイティ祐希子にブレード上原が挑む、NA世界無差別級王座戦。
二団体間で新旧エースが交わって激突した試合は、結果こそどちらもサンダー龍子とマイティ祐希子という新世代を代表する王者の勝利に終わる。
しかし、激闘の末に敗れた六角葉月とブレード上原にも、超満員の観客席からは惜しみない拍手が送られたのだった。 *5A
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