「ヘイ、バンダナしてるマッチョなあたしが、姉のリリィよ」
「そしてロングヘアのキュートな私が、妹のコリィね」
「「2人で、スナイパー・シスターズよ!」」
「うおおっ! 見ろ、祐希子! あれだよ。あれこそ、スナイパー・シスターズだ! 海外プロレス番組で見てたのと同じパフォーマンスだぜ。すげー!」 *1
「いやまあ……いいんだけどね。今からあたしたちが戦う相手だって、忘れてない? 恵理」
7月にAACとの契約満了を迎えたWRERAは、個別契約中のリリィ・スナイパーの古巣でもあるWWCAと、新たに提携を結んだ。 *2
早速派遣されたレスラーは、エミリー・ネルソン、ダイナマイト・リナ。そして最後の一人が、長期休養明けでWWCAに復帰した、リリィの妹のコリィ・スナイパーであった。
リリィとコリィの姉妹タッグ、“スナイパー・シスターズ”は、世界でも指折りの人気と実力を誇るタッグであり、その再結成が日本で見られるとあっては、来島ならずともアメリカンプロレスファンにはたまらない。WRERAの観客も、熱い視線を二人に注いだ。
ただ、そうなると、その注目を快く思わない選手も出てくるもので……
「納っっっ得、いきませんわ!! 今日の主役は私ですのよ? それをあんな大味姉妹などに……こうなったら、いっそ乱入して、試合をぶち壊してさしあげますわ!」
「落ち着いてください、市ヶ谷さん。次の試合──葉月さんとの防衛戦に響きますよ」
「桜井さん! あなた、私とあの大味姉妹と、どちらの味方ですの!?」
「どちらの味方でもありません。ただ、葉月さんからは頼まれたんです。『ベストでやりあいたいから、あのお嬢が変なことしないよう、見張っといてくれ』と」
「くっ……。まあ、よろしいですわ! あの姉妹も祐希子たちも所詮は前座。AACタッグ王者でもある私と葉月さんとのタイトルマッチが始まれば、観客は皆、前座の試合のことなど忘れてしまいますわね!」
「興味ないし」の一言で、今まではシングルベルトへの挑戦を避けてきた六角葉月だったが、ノンタイトル戦でチョチョカラス、市ヶ谷、祐希子らを相手に連勝を重ねたこともあって、タイトル挑戦を期待する周囲の声が高まっていた。 *3
その声を無視できなくなったWRERAの社長が説得に乗り出し、ついに市ヶ谷の持つAAC世界ヘビー級王座への挑戦が決定したのだった。

「オーッホッホッホ! 昨日の友は今日の敵。タッグパートナーで先輩だからって、ひとかけらも容赦しませんわよ!」
「やれやれ。ま、期待させてもらうよ?」
市ヶ谷は先輩だからといって遠慮も様子見もしない選手だ。序盤から積極的に打って出るが、そこを豊富な経験で凌いだ葉月は、やがて自分のペース──関節地獄に市ヶ谷を引きずり込む。
「大丈夫かい? ちょこっと痛いぜ?」
「くうっ……こんな!?」
圧倒されながらも、何とかロープブレイクの連続で凌ぐ市ヶ谷に風が吹いたのは、地味な展開に観客の反応を気にした葉月が、仕切りなおしと間合いを取った時だった。
「ここですわ!!」
柔道女王ならではのキレのある裏投げから、勝負をひっくり返すビューティボム。それだけで屈する葉月ではないが、一度調子に乗った市ヶ谷はもう止まらない。
シャイニングウィザード、DDT、そして再度の裏投げに繋げ、市ヶ谷は格上の葉月から、辛くもタイトルを守りぬいた。 *4
「オーッホッホッホッホ! 常勝街道まっしぐらですわ!」
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