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ルチャ・リブレの王国、灼熱の高地、メキシコ。
“ルチャ・リブレ”とは、“自由への戦い”を意味し、その名が示すとおり、思うに任せぬ国内事情の辛苦から一時的にでも解放されるべく、レスラーたちは日夜ハングリーに戦い続ける。
そんなメキシコマット界最大の勢力を誇る団体がAAC。 新日本女子とAACは長年に渡り提携関係にあり、多くの新女若手選手がここで厳しい戦いを味わってトップイベンターになるための実力を磨いてきた。
祐希子も到着したその日からAACの若手・デスピナ・リブレとの試合を組まれた。
「ふう…外国のリングで試合するのがこんなに疲れるものとはね。こりゃ思ってたより大変かも」
「…あなた、日本人ね。ニュージャパンレディから来たの?」
「え? ええ、そーです…」
「フジコやリサコは元気かしら?」
「そりゃもう、イヤんなるくらい元気ですよ。あの人たちは」
「フフッ…面白いコね。それじゃ、あなたも頑張って。失礼するわ」
風格。雰囲気。ドラゴン藤子と同じ匂い。 その覆面レスラーが ”仮面の貴婦人”と呼ばれるAACヘビー級チャンピオン、チョチョカラスと知った祐希子は、メキシコで何かベルトを取らない限り帰らないと決意する。
持ってみないとわからないベルトの重みを自ら感じ取り、ドラゴン藤子の本当の強さを理解するために…
「ターゲットは世界ジュニア王者、リタ・モレナね!」
祐希子が抜群の格闘センスとイキの良さとで勝利と人気を積み重ねていたある日、日本から来たという覆面レスラー、チェルシー羽田との試合が組まれる。
久しぶりの日本人との試合というだけではなく、日本で試合をした誰とも違う動きを見せた羽田に関心を持った祐希子は、試合後、彼女の控え室を訪れた。
「へ? ワールド女子? プロレス団体って、新女以外にもあるの?」
「…」
「あ、あああ、ごめんごめん。あたしレスラーのクセに、プロレス界の事情についてまったく知らなくてさ。…悪気はないのよ?」
「ハハハ、へんな人ね。悪気がないのは見れば分かるよ。あたしは羽田和子…って、さっき試合したんだから知ってるか。でも、せっかく会えたんだけど、もう日本に戻らなくちゃいけないんだ」
「そうなんだ…それじゃもう一度、今度は日本で試合しよう」
「ハハハ、団体が違うから簡単にはいかないけど、そうなるといいね」
「ハーイ、デスピナ。おはよう!」
「ハイ、祐希子! あなた、リタとタイトルマッチやるんだって? すごいじゃないか!」
「あれ、デスピナ知ってるの?」
「うん、さっき聞いたよ。だけど、ちょっと悔しいな。あのベルトはあたしも狙ってたんだけどな」
「デビューしたての新人にはまだちょっと早いよ、デスピナ」
「あー、言ったな! どーせ、あたしはド新人ですよ。さあ、練習、練習! とにかく、練習だ! そして、強くなってやるんだ!」
ついに訪れた、戴冠の機会。
IWWF世界ジュニアチャンピオン、リタ・モレナとの戦いでは相手のスピードと大技・ムーンサルトプレスに危ないところもあったが、最後は祐希子のベルトへの想いが勝ったのか、見事IWWF世界ジュニアベルトを奪取することができた。
そして、祐希子は足早にメキシコを後にする…