死闘を制して決勝進出を決めたタッグチームは、桜井千里&ビューティ市ヶ谷組と、武藤めぐみ&結城千種組。
前・NAタッグ王者と現・NAタッグ王者がその実力を見せつけるとともに、決勝の場で再び雌雄を決することとなったのである。
その前に行なわれるのは、シングルの準決勝。
ここ数年のプロレス界をリードし続けてきた二人の女神・マイティ祐希子とサンダー龍子、そして、タッグ決勝でも顔を合わせる桜井千里と結城千種が、頂点への挑戦権を賭けたリングに上がる。
「祐希子……私は、ここまで来たよ。 あの夜、言ったとおりにさ」 *b1
光に満ちた、リング中央。
サンダー龍子は、自分より一足遅れて歩いてきた宿敵・マイティ祐希子に声を掛けた。
感慨深げな響きの中にも、不敵な闘志、そして必勝の信念が、色濃く刻み込まれている。
「私は、今度こそあんたを倒してみせる。 これも、あの夜に言ったとおりにね。
この大会、あんたは調子悪いみたいだけど、だからって油断も遠慮もしない。
ただ……できることなら、本調子のあんたに出てきてほしいけどな」
熱い想いを静かに語る龍子の前で、対する祐希子は、無言。
龍子の視線を避けるかのようなうつむき加減は、“炎の女帝”には決してふさわしくない弱気にも見える態度だったが、龍子の話が終わると、その唇が小さく動いた。
「あのさ、龍子……」
「ん?」
「あたし……忘れてたの。 思い出したのよ。 この前のフレイアさんとの試合で……さ」
「なにを、だい?」
軽く訊いた龍子の呼吸が、止まった。
龍子に向けて上げられた、祐希子の顔。 その中で炎のように熱く燃えて輝く、獣のような瞳を目の当たりにして──
「負けることの、怖さ。 絶対に負けたくないって、想い。
ここんとこのあたしが忘れちゃってた気持ちを、思い出せたの。 だから──」
怯えにも似た、しかし決してそうではない震えが、龍子の全身を巡り、血を滾らせた。
その眼前で、祐希子が笑う。
「だから、あんたにだって、絶っ対に負けてやんないわよ!!」
それこそが、龍子が生涯をかけても倒したいと願う、最強の戦士の笑顔だった。
──“無敵の女神”同士の決戦は、文字通り互角の序盤・中盤戦から、シャイニングウィザードで龍子の意識を飛ばした祐希子がすかさずローリングクラッチホールドで丸め込み、カウント3を奪い去った。
あっけないとも言える、ハイペースな電撃戦。 *b2
それを制した“炎の女帝”が一人歩み去る姿を、敗れた“反逆の女神”は、一言も発することなく見送っていた。
その表情が湛える感情の色は、見つめる者たちの誰にとっても、正しい判断がつかないものであった。
○ マイティ祐希子 −(14分19秒 ローリングCホールド)− サンダー龍子 ×
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「あのー、千里さん。
千里さんと、こんな形で戦うのって、初めてですよねっ」 *b3
「『こんな形』……?」
「何かを賭けた、シングルの舞台で。
私、千里さんと、それから祐希子さんとも、ずっとこんな形で戦ってみたかったんです!
だから、今日はよろしくお願いします!」
千種が目を輝かせたまま破顔したところで、千里は背を向けた。
決して千種を避けたわけではなく、試合開始のゴングを待つべく一旦コーナーへと戻るためだ。 そんな千里に、千種の決意に満ちた声が届いた。
「私、勝ちますからね! 千里さん!」
ゴングが、鳴った。
自らの決意と、セコンドについた親友・めぐみの声に押されて、千種は一気に前に出た。
アームホイップ、ショルダータックル、そして──
「今の私の力、見てください!!」
千里のエルボーに鋭く潜りこんでの、バックドロップ。
序盤のペースは、千種が握った。
対する千里は、明らかに動きが重い。
それならこのまま行くだけと、千種は千里をロープに振って、ジャンピングニーを突き刺そうとする。
「──甘いっ!」
返し技から、ドロップキックに、ソバット二発。
動きが重いと見えたのは、様子見とカウンター狙いだったのか。
千里はさすがに百戦錬磨。 技を集めて、瞬く間に千種からペースを奪い取った。
「あなたに──あなたたちに、まだ譲るつもりはない!」
それは、格上という立場のことか、一足先に決勝進出を決めたマイティ祐希子に挑む権利のことか、それともその先に見据えた最強の座のことか。
いずれにおいても重要な鍵となることは間違いない千里の切り札・ハイキックが、狙い違わず千種の頭部を捉えて、彼女の膝をマットに落とす。
「千種──っ!!」
めぐみの声が、落ちようとしていた千種の膝と、彼女自身を踏みとどまらせた。
どちらかといえば童顔な顔立ちを誰にも見せたことのないような鬼の形相に変えて、千里に、おそらく彼女にとっては過去最強の相手に、必死でしがみついていく。
「約束を……守るの! めぐみのためにも、私は、負けられない! 勝つんだから!」
これだけは世界の誰にも譲らない千種の投げ技、ジャンボスープレックス、フロントスープレックス、ノーザンライトスープレックスが、千里の身体を何度も浮かせ、マットに叩きつけた。
そして千種が最後に狙うは、伝家の宝刀・バックドロップ──しかし、その身体が千里の背を捕らえるより早く、無情にも脇腹に叩き込まれた迅雷の一撃。
「……武藤にも、言った」
千里は、重いミドルキックによろめく千種を支えるかのように掴むと、鋭い眼光とともに、残る言葉を言い放った。
「約束を守るため──そんな強さでは、私に勝てない!」 *b4
不知火、スクラップバスター。 とどめはノーザンライトスープレックス。
最後は相手が得意とする投げ技で、IWWF世界王者・桜井千里が EWA世界王者・結城千種を破り、大会決勝戦・最後のキップを手中におさめたのである。
○ 桜井千里 −(16分09秒 ノーザンLスープレックス)− 結城千種 ×
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